岩風呂での秘密

去年の夏、仲の良い夫婦4組で温泉に行ったんだ。俺を含む男4人は学生時代からの仲?で、どいつも30代後半。

4組とも子供がいないこともあって、結婚後も家族ぐるみで付き合ってる。行き先は有名な温泉地でもないし、泊まったのは古くて小さな宿。たまたま改修直前だったせいか、俺たち以外の客は2〜3組だけだった。

軽く風呂に入り、安っぽい夕飯を済ませたら、男4人は部屋で麻雀。女4人はビールを飲みながら、楽しそうにお喋りしてる。この4組でたまに旅行するんだが、だいたい夜はいつもこんな感じだ。

麻雀の前に、ロビーの自販機でビールを調達する。やっぱりこれがないとな。ついでにタバコを一服してたら、宿泊客らしき若い男3人組が通りかかった。「岩風呂って、この奥?」

「たぶんそう。宿のおじさんがロビーの奥が入り口って言ってたし」「この表示じゃない?うわっ、字が小っせえ!」3人とも中学生か、せいぜい高校に上がったばかりくらいだろう。

そういや、宿の前に自転車が並べてあったのを思い出した。夏休みに友達で連れ立ってサイクリングか。うーん、青春だなぁ。そんなオッサンを気にすることなく、3人はそのままロビーの奥へ向かった。

部屋に戻ると、嫁さんたち4人が手拭いを持って出掛けるところだった。風呂は夕飯前に入ったが、せっかくの温泉だからまた行ってくるという。部屋は4組一緒で、夫婦ごとに寝床用の間仕切りがしてある。

すぐ脇でジャラジャラやられたら、落ち着いてお喋りもできないんだろう。半荘を何回やったかな。ジャラジャラし始めて2時間は過ぎてたと思う。連続でラスを引いたりと流れが悪かったんで、俺の提案でいったん休憩。

験直しにもう1回ビール買ってくるか、と部屋を出たところで、さっきの男の子3人組とまたすれ違った。湯上がりほやほやの火照った顔だ。「ここの岩風呂、最高だったよなー」「あーもうダメ。俺、足腰立たねーしw」

へえ、今出たとこか。男のくせに、という言い方も何だが、えらい長風呂だな。熱燗で1杯やってたわけでもないだろうに。まあ、男でも風呂好きはいるしな。「なあ、明日の朝、また行く?」

「あったり前だろー」男の子たちの声を背中で聞きながら、ロビーの自販機で再びビール調達。ついでにタバコを一服してると、奥から嫁さん4人が出て来た。

「なんだ、今まで入ってたんだ?」「うん、岩風呂が気持ち良かったから長湯しちゃった♪」うちの嫁、普段から風呂は長い方だが、4人だと拍車が掛かったらしい。

どの奥さんも心から満足した様子。まあ、これも温泉の楽しみなんだろう。一服を終えて部屋に戻ると、女4人は化粧水をつけ、早くも就寝モードだった。ここで再びジャラジャラやり始めるのは、さすがに気が引ける。

負けが込んでた俺としては、もうちょっと頑張りたかったが、時間もかなり遅かったんで、とりあえずお開きにした。牌を片付け、寝る前にもう一風呂。今度は男4人で繰り出す。「なあ、ロビーの奥に岩風呂があるらしいから、行ってみようぜ」

俺の提案に、友人3人は「いいねえ」と従った。岩風呂は奥まった場所。改装中のせいか、明かりは裸電球がいくつかあるだけだ。想像したよりこぢんまりしてて、狭い脱衣所が1カ所に、浴場が1カ所…。えっ?「ここって…混浴だよな?」

「んー?俺たち以外、客なんてほとんどいないんだし、関係ねーだろ」「よーしっ、おまえ、どっかから巨乳の女子大生を調達してこいw」馬鹿なことを言い合いながら、友人たちはドヤドヤと風呂へ。俺も続いた。

浴場の中もかなり小さく、大人5〜6人も入れば満員になりそうだ。「おいっ、ここタオル禁止だってさ」湯船に浸かろうとした俺に、友人が声をかける。見ると確かに、浴室の壁に「タオル・手拭い等は湯につけないでください。変色します」と書いてある。

湯は透明っぽいが、何かの成分が含まれてるんだろう。まあ、長い付き合いだし、恥ずかしがるような相手でもないけどな。洗い場もスノコが何台か置いてあるだけの貧相な造り。

湯自体は悪くないけど、薄暗いし、2時間もいる場所じゃないよな。第一狭い。独りなら風情があっていいかもしれんが、4人じゃ…ここで思い出した。そういや、あの男の子3人組も岩風呂に行ってたんだよな。ここ以外に風呂がないってことは…まさか、嫁たちと混浴してたのか?部屋に戻ると女4人はもう就寝中。起こさないよう、嫁の隣の布団に潜り込む。

出るときにもう一度確認したが、他にそれらしい風呂はなかった。というか、ロビーから出入りできるのは岩風呂だけだったし。嫁たちも男の子たちも、岩風呂に行ったのは麻雀を始める少し前。

どっちも出たのは中断する少し前だろう。ということは丸々2時間、あの狭い浴場に7人一緒にいたのか?タオルも手拭いもなしで?嫁は34歳。そりゃ20代の頃と比べたら少し弛んできた気もするが、胸はかなり大きいし、まだまだソソる体の持ち主だと思う。他の嫁さん3人も嫁と同年代のはず。もちろん裸は見たことないけど、3人とも均整の取れた、それなりのプロポーションだ。まあ、男子中高生から見たら、30代半ばの女なんてオバさんもいいとこ。

至近距離で全裸になられても案外平気なのか。俺の高校時代もそうだっけ?いや、至近距離どころじゃない。あの狭い風呂だ。さすがに7人一緒に湯船に浸かるわけにはいかんだろうけど、普通に入浴しても、体の接触があって不思議じゃないよな…。隣にいる妻は、俺の思いも知らず満足そうな寝息を立ててる。

気になり始めると、浴場のすえた臭いも、スノコが妙にネトついたことまで変に思えてくる。悶々としながら、いつの間にか俺も眠りに落ちていた。翌朝、女4人がガヤガヤと部屋に戻って来る物音で目が覚めた。もう9時を回ってる。麻雀疲れか、男4人はすっかり寝坊したらしい。

「まだ寝てたの?宿の朝ご飯の時間、終わっちゃうじゃない」向こう側の布団では、友人が奥さんに叩き起こされてた。「おまえら早いな〜、何時から起きてたんだよぉ…」

「7時起きよ。みんなで朝風呂行って来たんだから」何というか、こういうときの女の行動力、俺はついて行けんわ。眠い目をこすり、朝飯を食べに行く。他の客はとうに済ませたようだ。

「朝風呂って大浴場?」「岩風呂よ。気持ち良いから今朝も2時間入って来ちゃった♪」友人夫婦の会話を聞きながら、昨夜の男の子たちの『明日の朝、また行く?』『あったり前だろー』という言葉を思い出した。

3人はもう出発したらしく、宿の前に並んでた自転車はなくなってた。引っ掛かりは取れないが、岩風呂で何かあったのか、今も聞けずにいる。