ジジイの契約妻

私は、今現在28歳で医療機器販売の仕事に日々励んでいる営業マンだ。この仕事には大学卒業後にすぐに就き、今年でもう6年目になる。

そして、6年目と聞くと多くの者が、もう日々の仕事にも慣れた頃だろうと感じるかもしれないが、そんなことは決してない。私が元々、内向的で営業には向いていない性格であったということも考えられるが、仕事に慣れない大きな理由としては毎日、担当先の病院の師長や先生からは立場上ストレスの捌け口として扱われ、上司などには売り上げのことでガミガミ言われたりと、医者と上司の板挟みになっていることがあげられると思う。最近では、もはや自分の仕事が医者のパシリ状態になりつつあり、日々劣等感に悩まされている。

そして、そんなこんなで今の仕事には満足ができるわけもなく、辞めれることなら今すぐにでも辞めたいと毎日感じさせられているのが現状である。しかし私は今も会社を辞めずに働き続けている。では何故、私がそんな仕事を嫌々ながらも辞めずに今も頑張り続けられているのか。

それはやはり妻の存在が大きいと私は考えている。実は私には1歳年下の妻がいる。毎日仕事で疲れて帰ってきても私は、この自慢の妻の笑顔、妻の食事、妻との会話で心が癒され、明日も妻のために仕事を頑張ろうと思うことができるのだ。妻が全力で私をサポートしてくれるおかげで、私も妻のために頑張ろうと思えるのだ。

正直この妻がいなければ今頃は私は会社を辞め、自堕落な性格を送っていたであろう。そして妻はしっかりしているだけでなく正直言ってめちゃくちゃかわいい。容姿が芸能人の桐谷美玲にそっくりで、正直どちらかというとヒョロガリ眼鏡の僕には全く釣り合ってはおらず、周りからはよく関係を疑問視される。

妻とは大学のサークルで出会ったのだが、後々から僕をパートナーにしてくれた理由を聞くと、当時の妻は恋愛には奥手で、この容姿で奇跡的に過去に交際関係もなく、どちらかというとヒョロガリメガネの僕の様な人間は話やすく感じたそうで、結果すぐに妻と私は仲良くなったということだ。そして一方的に時間と共に私が妻に惚れる形になり、多くのアプローチによりこれまた奇跡的に私は妻をGETすることができた。何もかもが奇跡なのだ。だから私はなおさら妻を手放したくはなく、辛いながらも仕事を頑張れるのだ。

そしてそんなこんなで毎日妻との生活のために仕事に励んでいたのだが、ある日私は、日々の疲れの蓄積もピークに達し、あろうことか取引先に対し、今までにないようなすごく大きなミスを犯してしまった。結論からいうと手術機器の手配ミスをしてしまい、なおかつそのことで患者さんに大きな影響を与えるという最悪な状況をおこしてしまったのだ。そして不幸にも大病院でそのミスを起こす結果となってしまった。

もちろんの担当の医者は責任問題を問われ、私の上司もそのことで私に怒り狂い、最悪なことに結果として担当の医者はこちらの会社との契約を続ける代わりに私のクビを要求してきた。とりあえず、私は上司にクビだけは勘弁してほしいと死にもの狂いで談判したが会社としてもすぐに結論は出せないと、私は一か月という長い間の謹慎を言い渡された。事実上の解雇だと思った。

さすがに一か月という長い期間仕事にいけないことを黙っておくわけにもいかず、私はそのことを妻になくなく話した。すると妻はとにかくできるだけのことはやってみようと、とりあえず私をクビにしようとしている医者に謝りに行くと言い出した。私は妻を巻き込みたくなかったのだが妻が頑なに私にも力にならせてと言い、最終的に一緒に取引先についてくることになった。私は本当にこの妻と結婚できてよかったと思った一方、絶対にクビになるわけにはいかないと強く思った。

そしていざ病院へ行き私の担当していた医者に謝りにいったのだが、このことが悪夢の始まりだった。私の担当していた男は、高岡という私と年も変わらないぐらいの男でこいつこそが私をまさしくパシリに使う男の一人だった。年がかわらないのに医者と取引先という身分の違いだけで本当にゴミのように扱われた。

また、高岡は私と正反対でどちらかというとイケメンでがたいもよく、要領もよかったため、病院側の人間からの評価は良く、なおさらそれがたちを悪くした。結果として高岡は影で自分より権力の弱いものにはすこぶる無茶をし、世間には良い顔をする最低な男だった。だから本当はこんな奴に妻の前では絶対に頭を下げたくはなかったのだが、私がミスをしたのはまぎれもない事実であり、どうしてもクビにだけはここまでしてくれている妻のためにも避けたかったので、私は必死に頭を下げ続けた。妻も私と一緒に頭を下げ続けてくれた。

しかしやはりそこは高岡だ。私たちをそう簡単には許してはくれない。いくら頭をさげても高岡が私を許す気配はみじんもない。高岡は何時間も聞く耳ももってくれないそんな空気からか、妻が痺れを切らし、高岡を振り向かせようとふと「本当に何でもしますから夫を許してください」という言葉を言ってしまった。

私も必死だったためこの言葉に違和感を覚えず合わせて「何でもしますんでクビだけは」と高岡に頭を下げ続けたがこの言葉がいけなかった。高岡は私ではなく妻が言った方の発言を見逃さずその言葉を聞いたとたん、今まで変えなかった表情を初めて変化させた。そして数秒の沈黙の後、一瞬ニヤッとしたかと思うと高岡の口から次の言葉が発せられた。

「あなた、なんでもしますって今言いましたよね?1か月僕の妻になれますか?」と私はもちろんすぐに、「バカなことを言うな、妻は関係ない、何でもするのは俺だ」言い返すがすかさず高岡は「もしあなたが1か月私の妻になってくれるなら、すぐにあなたの夫のクビは取り下げ今まで通りの契約を続けますよ」と私を無視し妻に問いかける私は本気で妻を巻き込みたくない、このままこの場所にいても埒があかない妻だけは危険にさらしたくないと、妻を帰らせようとしたが私のことを思ってだろうあろうことか「考えさせて下さい」と妻が高岡に返事を返したのである。すると高岡は、間髪いれずに「駄目だ、今すぐ返事をだせ」と妻を追い込んだ。「いまから10秒数える、数え終わるまでに答えを出せなければどちらにせよお前の夫はクビだ」と私は、本当に今の私のことで追い込まれた妻ならOKしてしまうのではないかと、妻の手を握り外に連れ出そうとした。

しかし妻は動かない。その間にも勿論、高岡のカウントダウンは止まらない。そして残り4秒をきった当たりで妻の口が開いた。

私は「やめろぉぉお」と必死に声をあげ、妻の手を引っ張るが私の必死の抵抗にも関わらず私の耳にも高岡のも耳にも妻の声が届いてしまった。「なります」「1か月あなたの妻になります」と数秒してこんどは高岡の「契約成立」という言葉が私の耳に届いた。

私はこんなの無効だと必死に抵抗し、妻を連れて帰ろうとする。しかし妻はそれでも必死に抵抗する。私はさらに強い力で必死に妻を帰らせようとする。そうこうしていると、なぜか私の手に水滴がおちてきた。ぽたぽたと落ちてきたそして私はゆっくりと顔をあげた。

すると、やはりそこには涙で顔を濡らした妻がいた。「あなたのためなの。この病院での悪評が広まったらあなたはもうこの業界では生きていけなくなる。今からまったく違う仕事なんて将来的にも大変でしょ?」「私が一か月我慢すれば良いだけ、私たちの未来ののために、私にも頑張らせて」

と私に真剣に問いかける妻がいた。私は訳もわからなくなり、きずいたら高尾の顔面に思いっきり殴り掛かっていた。私の拳にクリーンヒットした。しかし私のような貧弱なパンチは私よりも一回りも大きい高岡にはほとんど聞いていないようだった。

すると今度は間髪入れずに高岡の拳が私の顔面にとんできた。私の視界は真っ黒になった。きずいたら時間は真夜中になっており、私は病院のベッドの上に寝ていた。

そしてベッドの上には高岡が書いたであろう「おまえから突っかかってきたんだからな、今度変なことしたら今度はおまえの女が痛い目にあうかもな、お前の女の努力も無駄になるぞ」という文字と妻が買いたであろう「大丈夫?私は大丈夫だから心配しないで。何があっても私はあなたのものだから」という文字が書き残された書置きがあった。私はその夜は妻を巻き込んでしまった現実を直視できずに眠りについた。そして朝が来た。

本当なら今すぐにでも高岡の元に殴り込みにいかなければならないところだが、妻の安全と、決意を思い出すと高岡のもとへは体が動かなかった。また、しばらくすると沸騰していた頭が徐々に冷めてきた。何人かの声が耳に入り、そこでようやくこの部屋が6人による相部屋だということにきずいたカーテンを開け見渡すと、周りは自分より一回りは上のおじさんばかりだった。

とりあえず私は妻がどこにいるかわからないし、今高岡に会うとまた自分が壊れてしまうのではないかと思い、とりあえず帰り支度をすることにした。そして支度も終わり部屋を出ようと思ったそのとき、高岡が入口からこの部屋に入ってきた。僕の顔を見て不敵な笑みを浮かべている。

また私自身も昨日のことを思い出し、怒りが込み上げてきた。するとそのとき唐突に高岡の口から「郷子〜入ってきなよ」という言葉が発せられた。私は一瞬固まってしまった。

なぜなら郷子とは私の妻の名前だ。そうこうかんがえてるとやはり私の知ってる妻である郷子が入ってきた。高岡はあいかわらず私にニヤニヤした表情を見せてくる。

きずくと高岡の手が郷子の腰に回っている。そしてまた、私は高岡の発言に固まることになる。「郷子、キス」

俺の目の前で高岡は郷子の顔に唇を近つける。あたりまえだが郷子は俺の目や他の目もあり高岡を拒絶する。しかし次の高岡の言葉でまた、事態は一変した。

高岡が「今は俺の妻だろ、夫がクビになってもいいの」と郷子にささやく。すると今度は恥ずかしそうな顔で郷子が高岡を見つめる。

そしてあっという間に二人の唇が私の目の前で重なる「チュ」「チュ」「チュ」「チュ」と何度も重なる。すると今度は周りから歓声がきこえる。

相部屋のジジイだ「若いね〜先生のこれかい?」といいながら小指をたてるジジイ「手をカメラの形にして先生もやるね〜」と騒ぐジジイ高岡は勝ち誇った顔でこちらを見てくる。郷子は顔を真っ赤にして私と顔を合わすまいとうつむいている。すると「なんで昨日教えたキスやってくれないの〜?」

と高岡の声すると私はまた頭が沸騰してき、いつのまにか手が勝手に高岡の胸倉をつかんでいた。すると今度は「俺に手出したり、変なことしたらやばいって言わなかった?昨日の郷子ちゃんの努力が水の泡だよ。」と高岡の言葉が怒り狂った私の耳に入った。

私は、目の前でのキスや昨日の努力などわけのわからないことだらけ、さらにこの怒りをどこにもぶつけることもできずこんどはいつのまにか一人廊下を走り抜けいつのまにか体が帰路に向かっていた。私は結局家に帰ったがそれからというもの何にもやる気が起きず仕事も謹慎中のためひたすら家にひきこもった。ろくに飯も食わずひきこもった。すると一週間ほどたったある日、会社から携帯に連絡が入った。

俺に猶予を与えるとのことだった。一か月の猶予を与えるから毎週高岡の病院へ行けと。その一か月で高岡が俺の仕事ぶりを判断し、クビにするか、しないかを決めるとの内容であった。高岡からの提案らしい。絶対何かあるのだろう。

しかし私の職のために頑張ってくれている郷子を思い出すともう後戻りはできないと、私は契約通り高岡のもとへ向かうこととした